cello 空間設計

広場の片隅で

In the corner

pâtisserie CとSHE.s / パティスリー シートシーズ

業  態
洋菓子店 / フランス菓子
所在
京都府京都市
開業時期
2023年10月
受注形態
設計・重点監理

パティシエご夫婦が、はじめて開業されるフランス菓子店です。おふたりが長い時間をかけて温めてこられた「街のケーキ屋さん」への想いが小さな空間にギュッと凝縮されています。テナントの第一印象は独特なものでした。賑やかな街中であるにもかかわらず、密集した建物の狭間にぽっかりと出現した広場のような空間が目の前にありました。そこに佇んでいると、お菓子のあまい香りに誘われて、様々な人が広場に集まってくるイメージがふわりと浮かびあがってきました。

京都市内の街は、平安京遷都以来、東西南北の通りが碁盤の目状に交わる条坊制を基盤としてできています。大きな通り沿いには背が高い大きなビルが建ち並ぶ都市的な風景が拡がっており、大きな通りから内部へと小さな通りへ歩みを進めると、背が低い小さなビルや木造家屋が建ち並ぶのどかな風景が広がっています。このように現在の京都市内の街区は、周縁が大きなスケールの建物で構成され、内部の中心へ向かうほど小さなスケールの建物で構成されています。いわば「四角いすり鉢型の街区がグリッド状に並んでいる」と言うことができます。お店はそのような「四角いすり鉢」の内部に位置しています。
大きな通りから小さな通りへ入り、テナントへと歩みを進めていくと、現代的なビルやマンション、寺社や町家に囲まれた広場のような拓けた空間が現れます。「広場のような」と言っても人や自動車が通る公道ですので地面はアスファルトで舗装されています。このような特徴的な空間ができた由来は、古くから広場の中心に存在する寺院の参道の名残だと考えられます。今でも日常的に「お薬師参り」のため多くの人で賑わっています。数年前まで、お寺の前に毎日おでん屋台が出ており、もっと賑やかだったようです。また、週に数回、鮮魚の移動販売車がやってきて、地元の人々へ新鮮な魚介類を提供しています。人々が自然に集まり井戸端会議的なコミュニケーションが生まれ、この広場的な空間が街の要所になっているようです。現代的な都市に内包されながら、懐かしい昔ながらの生活風景が残っているところがこの場所の特徴だと言うことができます。

周辺環境との関係性 (京都ならではの)お客様との距離感
まず、広場的な空間とお店との関係性を構築することから設計をはじめました。屋外から店内をどのように見せるか?また、見せないようにするか?店舗スタッフと地元のお客様との(京都ならではの)距離感、インバウンドによる外国人観光客との距離感、周囲の建築物の形状、スケール、色彩との関係性等、複数の視点からファサードの開口部の配置とサイズ、配色を模索していきました。

そこはかとなく見えるお菓子
お店の主役であるフランス菓子を「これでもか」と派手に演出せず、そこはかとなく見えるように窓と壁との量感と配置を調整しました。具体的には、ファサード面を構成する入口扉のガラス窓や、壁面のガラス窓と、店内の販売スペースを構成する冷蔵ショーケースや商品陳列棚を正対させず、少しズラして屋外から店内を覗いた時に商品が少し隠れるように、丸見えにならないようしています。
床面のタイルは、壁と対角に貼ることで、小さな空間でありながら人の動線と視線が常に動くことを促し、店内の商品やディスプレイを余す所なく見ていただく仕掛けとしています。
空間を構成する天井や壁、床、什器の色彩や手触りは、彩度を少し落としたくすみがかった色とし、マットな質感にすることで、彩り豊かで艶のあるフランス菓子を引き立てる背景となるように設えました。

このようにして広場のような空間の片隅にそっと寄りそう小さな「街のケーキ屋さん」ができあがりました。
おいしく美しいケーキを通して、人と人と、人とお菓子の距離がゆるやかに縮まっていき、やがてこの街になくてはならない「街のケーキ屋さん」へと育っていくことを願っています。

pâtisserie CとSHE.s
Google Maps

グラフィックデザイン:株式会社fine 日下れいか
厨房計画:株式会社HIRATA 澤田真弥
施工・施工監理:有限会社Wwork 渡邉昌敬