透明な器
Transparent vesselL'Oiseu Bleu / ロワゾ ブルー
- 業 態
- 洋菓子店 / 焼き菓子+生菓子
- 所在地
- 大阪府吹田市
- 開業時期
- 2024年11月
- 受注形態
- 設計・重点監理
「北摂エリア」と言われる閑静な住宅街にある洋菓子店です。周辺は緩やかな起伏に富んだ丘陵地で、1970年に催された日本万国博覧会/EXPO’70以降、郊外型住宅地として開発された地域です。計画的に歩車分離され、大小の公園が点在する緑と水が豊かな暮らしやすい生活環境で「住みたい街」として人気のエリアとなっています。そのような恵まれた環境に住まう地域の方々の日常生活に溶け込むような洋菓子店のあるべき姿を想像しながらデザインしました。
このお店は新規開業店です。よって、新しくできるこのお店の個性を地域のみなさんに知っていただくため、オーナーパティシエはどのような人で、どのような食材や道具を使い、どのような方法でお菓子をつくり、どのような接客でお菓子を売っているのか、透明性がある空間づくりを試みました。
街に開かれた空間
ファサードの大半をガラス窓とし、屋外から店内を一望できるようにしています。ガラス窓に面格子を設け、屋内で販売されているお菓子へ目線を誘導させるため、桟(さん)の配置を調整。また、販売スペースと厨房スペースとの間に位置する間仕切りにも面格子付のガラス窓を設け、厨房内で行われているお菓子づくりの様子を窺いながらお買い物を楽しむことができるようにしています。
回遊できる(ような)動線・見えない(ような)空間の分節
店内では段差や間仕切り壁や扉をできるだけ設けていません。それによりお客様は自由に店内を移動することができる開放的な雰囲気を感じ取っていただけます。また、パブリックスペースとプライベートスペースの境界を曖昧にし「ここまでは入っていいのかな」「ここからは入らないでおこう」と何気なく自制心を働かせてただくため、下り天井の高さとせり出し位置、造作家具の高さと幅を調整し、緩やかに空間を分節しています。
お施主様の経歴を文脈として捉える
お施主様は、長年ホテル内のレストランでパティシエとして勤務されてこられました。そのホテルは、明治時代の後期より西洋文化を取り入れながら発展してきた阪神間モダニスムの影響下にあり、市井の人々に新しいライフスタイルを浸透させることに貢献してきました。そのような地域史、個人史から拡がる文化的背景を参照しながら、西洋の小さな老舗ホテルのような雰囲気を感じさせる要素を取り入れました。大きなスケールの両開きENT扉や幅に余裕のある通路、レセプションカウンターのような大きなショーケース=焼き菓子陳列棚を設け、大らかな気持でお客様をお迎えします。
また、お施主様がご自身で選ばれた瀟洒な西洋アンティーク家具が空間に映えるよう、周辺の要素をミニマルなディテールで仕上げました。ただし、単純に引き算を行い要素を少なくするのではなく、形態はミニマムながら、色と質感、手触りは、既設の屋外タイルや躯体のコンクリートの色と質感とのバランスを考慮しながら決定し、場所ごとに左官や塗装の種類と施工方法を変えています。
お菓子を選ぶ楽しさを見守る設え
このお店の主役はなんと言っても「お菓子」、特に「焼き菓子」です。(少量ではありますが生菓子もあります。)焼き菓子のシズル感を喚起させる暖色系の色味を際立たせるため、お菓子が陳列される周囲をチャコールグレーやライトグレーなどニュートラルな色で、質感もツヤを抑えたマットな仕上げとし、控えめな背景的存在になるように調整しました。お客様の目に自然な流れでお菓子が映り込み「どれを食べようか」選ぶことを楽しんでいただくためです。
以上のように、いくつかのデザイン要素を調整することで、西洋の小さな老舗ホテルのようなフォーマルな雰囲気と、街の個人店のようなカジュアルな雰囲気が共存する空間ができあがりました。
このお店に「おいしいお菓子を買いに行く」という行為が、この街のみなさんの日常生活に自然と溶け込んでいくことを願っております。
ちなみに「ロワゾブルー」とはフランス語で「青い鳥」という意味です。
la pâtisserie L’Oiseau bleu
Google Maps
グラフィック:株式会社fine 日下れいか
厨房計画:株式会社HIRATA 尾崎誠一・明石武大
施工・現場監理:株式会社GLORY ARCHITECT WORKS 光田夏美・廣田奈々