公園のようなお店
Like a parkゆげ焙煎所 本店 / yuge roastery head store
- 業 態
- コーヒーショップ
- 所在地
- 兵庫県西宮市
- 開業時期
- 2013年03月
- 受注形態
- 設計・施工・現場監理
阪急電鉄神戸線「夙川駅」とJR神戸線「西宮駅」の中間地点に位置しています。駅からは少し遠い立地ですが、周囲に役所関連施設が複数あるため賑やかな環境です。実店舗を開業する際、理想的なテナントと出会うためには運も大切です。案件によってはなかなか見つからない場合があります。今回、お施主様がご自分で探し出したテナントは、初見で「ここでいける!」と確信できる魅力がありました。モダニズム期の建築物特有の端正さが、その確信の裏付けとなりました。
お施主様とはじめてお顔をあわせ、お話させていただいた時「理想的なお店のイメージはありますか?」と質問したところ「公園のようなお店にしたい」「できれば店頭でコーヒーを(無料で)配りたい」と独特なお答えが返ってきました。このあとしばらくの間「公園のようなお店」という言葉がずっと頭の中に残りつづけ、当初は頭の中が「?」となりました。そうこうしているうちに実施設計がはじまり、だんだんとぼんやりしたイメージが具体的な風景へと変化していきました。(現在では、時折、ほんとうに店頭でコーヒーを無料で配られたりと楽しい空間になっています。)
シンプルで複雑なワンルーム空間
限られた空間内に、コーヒー生豆置場、コーヒー豆焙煎機、コーヒー豆販売スペース、エスプレッソマシンを設置するカウンター、カフェスペースなど、たくさんの用途を詰め込む必要がありました。単純に限られた空間の中に用途を詰め込むと狭いだけの空間になってしまうため、まず、お客様とスタッフの動線を別けることからはじめ、空間を具体的に分節する間仕切り壁はつくらず、ワンルーム空間の中で、主に造作家具と照明器具で空間を分節するゾーニングを試みました。
視点と視線の調整による空間の分節
限られた空間であっても、店内に居る間は、少しでも居心地よいひと時を過ごしていただくため、設計上ポイントとしたのが、お客様の「視点の位置」と「視線の動き」を調整することです。空間の用途に応じて、お客様の視点の高さと視線の方向と距離に変化を促す仕組みを考案しました。入口付近は、視点を高くし、視線は遠く空間全体を見わたす空間に。コーヒー豆販売スペースは、少し視点を低くし、視線は比較的近くを見わたす空間に。カフェスペースはだいぶ目線を低くし、視線はすぐ手元を見る空間となるよう、照明器具と造作家具の高さや配置を調整し空間を分節していきました。そうすることで、限られた空間であっても、様々なシチュエーションが体験ができるようになります。結果、お客様は、実際よりも広い空間だと感じることができると同時に、直感的にスペースごとの用途や特徴を理解し、自分で自分の振る舞いを決めたり、居心地が良さそうな場所を発見したりと、自由に、能動的に動くことができる空間ができあがったのではないかと思います。
お店が軌道にのった現在では、この小さな空間の中で「コーヒー豆を買いにきた人」「カフェラテを飲みながらゆったり読書を楽しむ人」「テイクアウトのコーヒーカップを片手にスタッフと会話と楽しむ人」混み合った状態であっても不思議とそれぞれの時間を楽まれてる様子をうかがうことができます。様々な人が集い、思いおもいに過ごされている風景を見ると「公園のようなお店」に少しだけ近づくことができたのかもしれません。
グラフィックデザイン:株式会社fine 日下れいか
施工:有限会社Wwork 渡邉昌敬